死亡届と銀行座凍結への対応
銀行口座が凍結される前にやっておきたいこと
金融機関が名義人の死亡を把握できなければ、口座が凍結されることはありません。
しかし、家族が金融機関に名義人の逝去を知らせなかったとしても、何らかのきっかけで金融機関が死亡を把握した場合、ある日突然、故人の口座が凍結される可能性も捨てきれません。そうなる前に、やっておくべき対策をご紹介します。
亡くなった後には、まとまったお金が必要になる
家族が亡くなった後には、医療費や介護費用、葬儀費用など、様々な支払いが発生します。
葬儀費用は、首都圏の家族葬の平均が115万円ですが、葬儀のスタイルや規模によって変わるため、葬儀費用は変わります。
複数の葬儀社から見積もり取って、おおよその費用を把握しておくことで、口座が凍結しても支払いができる準備をしておくと安心です。
葬儀が終わった後にかかってくる費用も大切です。葬儀を終えた後も、四十九日、納骨、仏壇、お墓、法要、遺品整理、相続などの各種手続きなど、その都度支払いが発生します。
口座が凍結される前に、お金の準備はどのようにしておくのか
1. 必要な費用を、生前に名義人から借りて支払う
ひとつ目の方法は、あらかじめ親の預金から介護費用や医療費、葬儀などのお金を借りておく方法です。
支払ったお金がいくらなのか誰が見ても分かるように、必ず領収書を取っておき、相続の時に精算します。こうしておけば、逝去後すぐに、多額のお金を親の口座から引き出す必要がなくなります。
2. 生命保険から支払う
親に生命保険に入っておいてもらうことも、対策としては有効です。保険金は預金のように凍結されることもなく、請求すれば指定の口座へ振り込まれます。
3. 口座を凍結せずに支払う
金融機関が名義人の逝去を知る前に、お金を引き出しておくという方法もあります。
但し、相続人が複数人いる場合、独断で多額のお金を引き出すことで、親族間のトラブルに発展しかねないので、事前に相続人同士でしっかり話し合いをしておくことが大切です。
また、一度に多額のお金を引き出すと、金融機関から特殊詐欺などの被害を疑われて、名義人に電話連絡などが入ることもあります。
その際、名義人が逝去したので葬儀費用として使ったことなどを金融機関に話してしまうと、その時点で口座は凍結されてしまいます。
銀行が口座凍結をするのはなぜ?
銀行が口座凍結を行うのは、相続財産を守るためです。
金融機関が名義人の逝去を知ったタイミングで、名義人の口座を凍結する理由。それは、名義人の口座にある預金は、逝去の瞬間から相続財産(遺産)になるからです。
金融機関は遺産の権利が侵害されることを防ぐために、適切ではない一部の相続人が勝手に預金を引き出すことがないよう、口座を凍結するのです。
家族の誰かが、故人の口座から勝手に預金を引き出すと、後々遺産相続でもめることは目に見えています。金融機関が遺産相続の争いに巻き込まれないために、逝去した名義人の口座を凍結するのです。
いったん口座が凍結されてしまうと、相続が確定するまで預金を下すことができません。
もちろん窓口やキャッシュカードによる現金の引き出し、水道光熱費の引き落としやカードの支払い、ローンなどの返済もできなくなります。
口座凍結は、銀行が名義人の逝去を確認してから
金融機関がその名義人の逝去を確認した時点で、その口座は凍結されます。
それでは、金融機関はどうやって名義人の逝去を知るのでしょうか?
「役所に死亡届を出すと、各金融機関に自動的に情報が伝わる」といった情報が、まことしやかに飛び交っていますが、死亡届を受け取った役所が、金融機関に情報を流すことはありません。
よって、死亡届を提出したからといって銀行が凍結されることはありません。
金融機関が名義人の逝去を知るきっかけの多くは、逝去した名義人の家族からの申請です。
家族からの申請以外では、金融機関の担当者が新聞の訃報欄で見つけたり、営業で地域を巡回している途中に町内会の掲示板で見つけた場合などです。
こうしたきっかけがもとで、家族が知らないうちに故人の銀行口座が凍結されたことがあったため、「死亡届を受け取る役所が、金融機関に故人の名前を伝える」という、噂が広がったのかも知れません。
口座の凍結後は、どのようにすればいいのか
名義人が逝去したて口座が凍結されると、再び使えるようになることはありません。金融機関で相続手続きを行ない、口座の名義人を変更するか、凍結された口座から全額を払い戻すかのどちらかになります。
手続きの方法
金融機関での相続手続きについては、預金を取得する人が遺言によって決まっている場合。遺産分割協議書がある場合と、ない場合。調停などにより預金を取得する人が決まっている場合など、それぞれの状況に応じて様々な書類の提出や手続きが必要で、とても手間と時間の掛かる作業です。
また、厳密には金融機関ごとに相続手続きの方法や必要書類も違っているので、金融機関の窓口に直接出向いて相談することになります。
このように、一度口座が凍結されてしまうと、解除までには非常に煩雑な手続きが必要になります。
凍結後現金がどうしても必要な場合は仮払い制度があります
民法改正により、2019年7月から「預貯金の仮払い」制度が開始されています。新しい制度では、遺産分割が成立する前であっても、一定の金額であれば法定相続人が、逝去した名義人の預貯金を出金できる制度です。
但し、仮払い制度を利用すると「相続放棄」ができなくなる可能性があるので、相続放棄を検討している場合は注意する必要があります。
出金できる金額の上限は、以下の「低い方の金額」です。
・ 死亡時の預貯金残高×法定相続分×3分の1
・ 150万円
預貯金の仮払い制度は、金融機関ごとに適用されるので、複数の金融機関に口座がある場合は、それに応じて出金できる金額が増えます。払い戻しの際に必要な書類は、
・逝去した名義人の戸籍謄本
・相続人の身分証明書
・相続人の印鑑証明書
・申請書
必要書類や証明書は金融機関によって異なることがあるので、事前に確認しましょう。
口座が凍結しても、遺言書があれば解除はスムーズに
遺言書がない場合は、まず相続人全員で話し合い、「誰が相続するか」を決定します。そのうえで、各金融機関で違いはありますが、一般的には以下の書類を整える必要があります。
・遺産分割協議書
・「各銀行所定の払戻などの依頼書」(遺産分割協議書と兼用の場合もあります)
・「亡くなった人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本」
・「相続人全員の戸籍謄本(全部事項証明書)」
・「相続人全員の印鑑証明書」
・「通帳・カード・届け印」
などです。
この時、「相続人全員」というところがポイントです。もしも、相続争いが起きたり、音信不通者がいると、この書類を集めるため、非常に手間と時間が掛かります。
なお、民法で定められた法廷分割で遺産を相続する場合には、遺産分割協議書は必要ありません。
・遺言書
・遺言者の除籍謄本
・遺言執行者の印鑑証明書
・遺言執行者の実印を押印した払戻依頼書
金融機関によって、必要な書類は異なるので、確認しておきましょう。
相続の際に役立つ遺言書の種類と注意点
遺言書は以下の3種類があります。
・自筆証書遺言:全文を自分で書いた遺言書
・公正証書遺言:遺言者の口述を公証人が筆記する遺言書
・秘密証書遺言:遺言の内容を記した書面に署名押印して封をした上で、公証人が遺言者の申述を記載する遺言書
遺言書は、書き方や取り扱い方法、効力の範囲などが民法で厳しく定められています。日付・氏名・捺印の漏れはもちろん、ルールに則っていない部分が少しでもあれば効力を失ってしまいかねない文書です。
「自筆証書遺言」は、全文を自分で書くため、いつでも作成でき、修正もしやすく、公証人などに依頼する費用が掛からないというメリットがあります。反面、不備によって無効になる可能性があります。
遺言書は自筆であることが前提となっているため、パソコンで作成したり、代筆してもらったものは無効になります。音声や映像での遺言も無効です。
「公正証書遺言」は、公証人が作成に関与するため不備はありません。一方で、遺言書を作成するための費用がかかります。しかし、証人が2人必要ですし、内容を変更するたびに費用が掛かるので、気軽に修正できるものではありません。
「秘密証書遺言」は、逝去するまで遺言の内容を誰にも知られたくない場合に作成するものです。作成のために、遺言書の内容は自分で書かなければなりませんが、自筆証書遺言とは違い、パソコンなどで作成することも可能です。
作成した遺言書は、封筒に入れて封印し、公証人と証人2人に遺言書の存在を確認してもらいます。ただし、中身は確認しないため、自筆証書遺言のように、不備によって無効になる可能性があります。
相続をする際の注意点
口座の凍結が解除されて、遺産を相続できたとしても安心してはいけません。
相続税の納税が必要な場合には、相続を知った日(被相続人の死亡日)から10カ月以内に相続税を納める必要があります。
相続人全員と連絡が取れない状態で、代表者が遺産を一旦受け取る場合には、何にどれだけの金額を支払ったか、しっかりと記録を取っておくようにしましょう。
後々、あらぬ疑いをかけられた時に、不正をしていないと証明するものは、見積書から請求書、領収書、レシート類まで、やすべて保管しておくといいでしょう。
口座が凍結されると、公共料金やローンの支払いなどが引き落とせなくなります。家庭の公共料金などを、亡くなった名義人の口座から支払っていた場合は、違う口座からの支払いに切り替えるために、口座の振替を行う必要があります。
時として遺産相続は、親族との縁を一生切るような大きなトラブルに発展しかねません。
複数の相続人がいる場合、金融機関の口座が凍結される前に、自己判断でお金を引き出すことは、それだけリスクが伴うことを理解しておきましょう。
相続の対象となる資産のある場合、亡くなった後に親族間のいらぬトラブルを避けるためにも、終活の一環として遺言書を用意しておくことをお勧めします。
凍結後の手続きをしないほうが良い場合もある
名義人の口座が凍結されても、状況によっては解除の手続きをしないほうがいいケースもあります。それは具体的に以下のような場合です。
相続放棄をする場合
遺産を相続する場合には、故人が保有していた財産について、プラスの財産「資産」だけでなく、借金などマイナスの財産「負債」も含めて、残された家族が受け継ぐことになります。
相続対象は、金銭や土地などに限らず、権利や義務にも及びます。借金の保証人の立場や、未払いの税金なども引き継いでしまうのです。
故人に資産も負債もあり、資産を相続しても負債を補うことが難しい場合、相続人には2通りの手段があります。
ひとつは、資産も負債も、相続の一切を放棄する相続放棄です。もうひとつは、資産の範囲でのみ負債を引き継ぐ限定承認です。
限定承認は、資産に比べて負債が明らかに多い場合や、まだ判明していない借金などが残っている可能性がある場合の手段として取られます。
凍結されている口座の預金額が、負債と比べてあまりに少ない場合は、相続を放棄するか限定承認するか、よく考えてから手続きをしないと、後々問題になります。
口座の残高が少額の場合
凍結された口座の解除は、相続手続きをして口座の名義変更をするか、払い戻しをするかしか方法はありません。相続手続きは様々な必要書類を銀行に提出する必要があるので、大変な手間と時間が掛かります
相続する人の考えにもよりますが、凍結されている口座の残高が数百円、数千円の場合は、煩雑な手続きを嫌って、解除手続きをしない方も多いようです。
凍結されている口座の残高については、金融機関の窓口で調べてもらうことができます。ATMを使って口座残高を照会しても、エラー表示になるので確認することはできません。
まとめ
- 故人名義の口座は、金融機関が名義人の死亡を把握した時点で凍結される。
- 口座が凍結されると相続が確定するまで、現金の引き出しも、ローンや公共料金などの引き落としも停止される。
- 死亡届を出しても役場から金融機関に連絡がいくことはない。
- 家族が亡くなると、医療費や介護費用、葬儀など、まとまった現金が必要になる。
- 葬儀を終えた後も、法要、仏壇、お墓、相続、遺品整理、各種手続きなど、その都度支払いが発生する。
- 口座が凍結される前に、お金の準備をしておくことが賢明。
- 口座が凍結されてしまったら、金融機関で相続手続きを行って、口座の名義人を変更するか、凍結された口座から全額を払い戻すしかない。
- 口座が凍結されてしまうと、解除までには非常に煩雑な手続きが必要。
- 口座が凍結された後で、どうしても現金が必要な場合は「預貯金の仮払い」制度がある。
- 口座が凍結されても、遺言書があれば解除がスムーズに行える。
- 相続を放棄する場合は、凍結の解除手続きを行わないほうが良い。
- 凍結された口座の残高が少額の場合、解除手続きはお勧めしない。
- 相続人が複数いる場合、口座が凍結される前に、自己判断で現金を引き出さない。
- 口座の凍結解除をはじめ、亡くなった後の様々な手続きまで、しっかりアフターフォローしてくれる葬儀社を選んでおくと安心。